服・機械・システムなど、私たちの生活に役立つ“ものづくり”の力。
技術をどう生かし、どんな価値を生み出すことが未来に必要でしょうか。
2022年8月25日(木)に行われた「よいことカイギ」。
前回と同じく、瀬戸内海放送 岡山本社(岡山県岡山市北区大供)で開催されました。
今回は「ものづくりを次の世代につなげるには」をテーマに岡山県内の4社が集まり、
高校生と大学生の前で語りました。
よいことカイギとは、
岡山・香川で「新しいことに取り組む企業」「将来を担うリーダーや若者」が集まり、
地域をよりよくすることや、面白くすることを一緒に考える活動です。
2019年8月~2022年3月まで行われた「おかやま100人カイギ」がきっかけとなっています。
【つながれ!オープンイノベーション 人生はいつだって楽しい】中原 康太郎さん
中原さんが代表取締役専務を務める中原製作所は、
1948年の創業後、新聞の印刷機などに使うローラー加工で全国シェアトップになりました。
しかし時代の流れで新聞の需要が減っていくと、他の業種にも対応。
ローラー加工だけにこだわらない新しい技術、新しいビジネスにも取り組んでいます。
中原さんがキーワードにしている「オープンイノベーション」は、
自社だけでものづくりをするのではなく、同業種・他業種とも手を組むことで
新しい技術発展を目指していくようなことです。
中原製作所は中原さんの祖父、父、そして兄が代々継いでいて、
父である前社長から「物事を新しい若い世代に繋げていく」という思いを受け継いでいます。
オープンイノベーションは企業だけでなく、岡山県の技術専門学校とも行っていて
授業で一緒にものづくりをした学生の中には、その後従業員になった人もいます。
またプロゴルファーのマネジメントや菓子職人とのコラボレーションなども行っており、
枠にとらわれない取り組みや挑戦をしていることを話しました。
「ものづくりは少し固いイメージかもしれないですけど、これを通していろんなことにチャレンジすることができるということを感じていただければと思います。」
【モノづくり技術を通して、豊かな社会をつくる】川井 雄之助さん
今回の発表タイトルは、川井さんが社長を務めるクレスコの経営理念です。
クレスコは金属加工のトータルサプライヤーとして、さまざまな機械に使われる金属加工部品を作ったり、住宅の屋外で使われるエクステリア関連の商品を開発、製造、販売したりしています。
川井さんは24歳の時、先代の父親が倒れたことをきっかけにクレスコに転職。
同時に社長になりました。
150年続いているこの会社で、川井さんが次世代のために大切にしているポイントは
「価値づくり」「人財づくり」「つながりづくり」「感動づくり」です。
- 価値づくり
職人の高度な技術×最新の技術によって「クレスコだからできる」と言われるモノづくりを実現し、複合的な視点から効率的な提案をお客さんにすることで、会社の価値を高める。
- 人財づくり
従業員が物理的に、心理的に、身体的に幸せな状態をつくる。川井さんはこれを造語で「物心身」と言っています。またワークライフバランスに力を入れていて、健康経営優良法人、岡山市ホワイトプラス企業などの認定を受けています。
- つながりづくり
クレスコに関わる人たちが同じ目標をもってWin-Winな関係になれる、成長し合える状態を目指す。例えば、協力会社へのノウハウ提供や勉強会を通じて、総合的な技術力向上や顧客満足度の向上につなげようとしています。
- 感動づくり
「こんなのがあったらいいな。」が実現できる会社へ。
発表中、川井さんが取り出したのは金属の板を折り曲げた自社の社章ケース。
溶接をしていないのでつなぎ目がなくすき間がありますが、そこに水を注ぐと……全くこぼれません!
これは“表面張力”という性質によるもので、こうしたことを実現できる製品を作るためには、高い技術が必要です。
「“楽しい・うれしい・すごいな”そんなポジティブな感情をつくりだすことが我々の豊かな社会目的の1つです。」
モノづくりを通して人の心を動かすことを大切にしている川井さんは、
「50年先の200年目も愛される企業を目指していきたい」と話しました。
【作る人にスポットライトを】井上 一さん
「会社でやっていることよりも、(聞いている高校生・大学生の)皆さんがこれから迎えるであろう10代後半~20代前半の頃を振り返りましたので、楽しんでくれたらいいなと思っています。」
井上さんは1980年に広島県で生まれ、20歳の時に児島に移住。
2007年にTCB㈱を立ち上げ、その後TCB jeansという自社ブランドを作りました。
ジーンズの道に進んだきっかけは少年時代、雑誌に小さく載っていた岡山のジーンズ工場です。
「中学生の頃に見て、衝撃だったんですよ。服って東京とかでデザイナーが作っていると思っていたけれど、岡山で作っていると。」
10代後半の時はショップ店員になり、製造現場を知らないまま商品を説明する日々に疑問を持ち始め、広島県から児島に移住します。
自分も職人のような作る側の人間になりたい!と思い、移住後は被服会社での就職を目指しますが、結果は散々。「未経験はいらない。無理です。」「男性でミシンなんて必要ないです」と厳しい言葉で断られてしまったそうです。
やっと採用された縫製工場では、ミシンの整備も覚えることが条件でした。
「工場では同世代のジーンズが大好きな人たちがたくさん働いているのかなと思ったら全然いなかったですね。ショックでした。」
想像とは違う児島での生活の中で井上さんは
ここで職人はモノを“作れる”けど、仕事は“創れなかった”と考えるようになります。
そして、それなら作る場所をつくろう。と27歳の時に会社を立ち上げ、その後自社ブランドも作りました。
井上さんの会社は、1階と3階で縫製や裁断を行い、2階で販売する、
ジーンズ製品が出来上がるまでのストーリーをお客さんが直接見られる場所になっています。
それは井上さんが児島に来た時に想像していた景色、過去の児島にはなかった景色でした。
「あの頃の少年(自分)に、向けて作りたいなと思って。
今は1つの会社の中に、作るのが見られて、買えるっていう場所を作っています。」
【一歩踏み出した先に見えた世界~オープンイノベーションの実現~】手塚 裕亮さん
「我々の会社のビジョンは、もともと農業機械をやっていたところから、「畑を耕す」をさらにでかくして「地球を耕す」という壮大なビジョンに向けて挑戦をしています。」
手塚さんはKOBASHI HOLDINGSで、農業機械事業の調達やモノづくり支援、地域新産業創出などに関わっています。
「皆さん、20年後はどうなっているか予測できますか?」
と高校生や大学生に質問した手塚さんは、現代では当たり前になっているICカードやスマートフォン、動画配信サービスは今の若い人たちが生まれる前にはなかったように、未来の予測というのは“むちゃくちゃ難しい”と語ります。
一方で、2040年には10%以上、2026年には26%減ると予測されている「人口減少」は確実に起こることだとして、働く人も減るし製品やサービスを使う人も減っていく中、これからは自分たちだけで戦うのではなく、仲間を増やして新しいことに取り組む考え方が重要だといいます。
手塚さんたちは、これまで農業機械の事業で培ってきた経験、自社の生産設備、そしてサプライヤー・パートナーの会社との関係を生かし、会社の垣根を越えたチームで協力し合うオープンイノベーションを進めています。
その事例として、
ユーグレナと協力したミドリムシの培養プールや、目の不自由な人が足に着けて使う振動タイプのナビ機械の開発、さらには企業だけでなく行政との連携もしています。
異業種の人たちと協力することで、畑がコケの培養地になるなど今まではなかった可能性がどんどん広がっていきます。
「未来を良くしたいっていうのは、恥ずかしがらずに大きな声で発信すると、自然にどんどん仲間が集まってきますし、その人たちの強みをどんどんかけ算すると、自分だけでは出せなかったものがどんどん出てきますそれで良くなっていくみたいなことを僕らは今チャレンジしています。」