子どもたちに地域への愛着を
持ってほしい

虫ってこんなにおもしろい!
身近な自然を通して郷土愛を育む絵本『むし占いの館』

川池 勇人

エフエム香川 営業企画部

2013年入社

川池 勇人

出身地:香川県

松本 慶一

みんなでつくる自然史博物館・香川
野生生物保護研究員

松本 慶一

森下 桂子

イラストレーター

森下 桂子

所属は対談時のものです

~子どもたちに地域への愛着を持ってほしい~
エフエム香川では2018年から毎年絵本を製作しています。テーマは、2018年から2021年までは「花」、2022年以降は「虫」。完成した絵本は香川県内の幼稚園・保育所などに無料で配布しています。

自分も大好きな香川の自然。子どもたちにも愛着を持ってほしい。

絵本のテーマを「花」や「虫」にした理由を教えてください。

川池絵本作りの背景には2つの思いがあります。一つは郷土愛あふれる人材を育てたいという思い。もう一つは植物や生き物が住み続けられる環境を守りたいという思いです。僕自身、自然のなかで虫を捕まえたり川遊びをしたりして育ったので香川の自然が大好きだし、この環境がずっと失われないでほしいと思っています。そのために、今香川に住んでいる子どもたちにも地域の自然を好きになってもらって、将来的に地域の環境を守る担い手になってほしい。そんな思いから、身近な自然に目を向けて興味を持ってもらえる「花」や「虫」をテーマにした絵本を作っています。

松本自然史博物館の研究員という私の立場から言っても、理科離れが進んでいる世の中で、身近な自然や虫に興味を持ってもらう機会が増えるのはとてもうれしいです。

川池完成した絵本は香川県内の幼稚園や保育所に配布しているんですが、「息子が寝る前の読み聞かせに何度もリクエストしてくる」とか「読み聞かせのイベントで使わせてほしい」といった声を聞くと、地域の人たちにも喜んでいただけているのを実感できてうれしいですね。

子ども向けの絵本だけど、正確性にもこだわりたい。

2023年に製作した絵本『むし占いの館』について教えてください。

川池虫って、幼虫と成虫ではまるで姿が違うものがありますよね。蝶とか、トンボとか、クワガタとか。そういう虫をテーマに、幼虫が占いの館へやって来て「どんな大人になるのか」を占ってもらう、というストーリーに仕立てました。

森下川池さんも松本さんも、虫の知識が半端じゃないですよね。

川池小さい頃から自然のなかで育ちましたから。でも僕たち大人が面白いと思う虫と、こどもが興味を持つポイントって同じとは限らない。なので、絵本にする場合はどういう虫のどんな生態に着目するかが重要なんです。知り合いの保育士さんにも話を聞いたりして、子どもが喜びそうなものをリサーチしました。

松本川池さんは、僕がいくつか虫の情報を出しても「ほかにありませんか」「ほかにありませんか」って何度も聞いてきて。これだけ時間かけてやるんだなと思いましたね。僕は、情報を提供する時点ではどういう言葉、どういうイラストで絵本になるのかわからなかったけど、「自然を守れる人材を育てたい」という同じ思いを共有していると思っていたので、とにかくいろんな情報を投げ続けました。

川池ストーリーができるまでに時間がかかってしまったので森下さんにはすごい短期間でイラストを仕上げてもらって。ありがとうございました。

森下いえいえ、おふたりがしっかりストーリーを作ってくださっていたので、イラストに専念できました。でも難しいなと思ったのは、虫の体をどこまで正確に描くかというところ。絵本だから擬人化してデフォルメしなきゃいけないけど、その一方で「こんなところから足が生えてたらおかしいよな」とか、「ダンゴムシの足って何本あるんだっけ」とか考え始めるとキリがなくて。

松本クワガタでも種類によって特徴が違いますからね。決定的に違うところは指摘して直してもらいました。

森下おふたりの並々ならぬ虫愛を感じて、自分でもいろいろ調べたおかげで虫にも詳しくなりました。『むし占いの館』のストーリーもすごく面白くて、最後はちゃんと未来に向けたメッセージがあって。虫ってこんなに一生懸命生きてるんだよって、子どもたちに伝わるといいなと思います。

松本さんと森下さんは、絵本製作ははじめてですか?

松本実は自然史博物館でも、過去に絵本を作る案が出たことがあるんです。でも絵本っていうのは、本当に詳しい知識を持った人が、お話を作るプロや、絵を描くプロと一緒に作るもので、素人が作れるものではないという話になって、断念しました。そこへ川池さんが絵本の監修の話を持ってきてくださって。エフエム香川さんはそれまでにも花の絵本を作っている実績があるし、専門家の立場から監修ということなら自分にもできそうだなと。それで、一度は諦めた絵本作りに挑戦するチャンスをもらえました。

森下松本さんもそうなんですか。実は、私も昔から絵本を作るのが夢だったんです。自分で作ってみようと思ったこともあったんですがお話を作るのがどうしても難しくて。だから川池さんが素敵なストーリーを作ってくれて、松本さんが専門家の目でチェックしてくれて、その上で自分の専門分野であるイラストで絵本に携われたのがとてもうれしいです。夢を叶えてもらいました。

イベントは子ども相手の即興ライブみたいなもの。

川池さんと松本さんは、イベントも一緒にされていますよね。

川池そうなんです。絵本だけじゃなく、2022年と2023年は香川県の島で子ども向けの虫のイベントも開催しました。松本さんはそれまでにも「虫むし博士」としてたくさんのイベントを経験されていたので、全面的にサポートいただきました。

松本絵本は絵本で、広くみんなに知ってもらえるメリットがあるけど、イベントはまた違う魅力がありますよね。その場でいかに興味を持たせるか、また、その場で生まれた「なぜ」「どうして」に、すぐにちゃんとした答えを出して、どれだけ興味を持続させていくかが大切。即興ライブみたいな感じですね。

川池ライブっていう表現はまさにそう。イベントのなかで虫を捕まえようと思っても、その日どんな虫が捕まえられるかは天候に大きく左右されるんです。もちろん準備はできるだけするけど、どんな虫がそろえられるかも、それを見て子どもがどう反応するかも、すべて予定通りにはならない。こちらの対応力が求められます。

松本虫好きな子にとっては「こんな大きいクワガタを捕った」とか「こんな虫知ってるか」とか、もう自分の好きなものを思い切り語り合える場でもあるんですよね。

川池本当に楽しそうですよね。その一方で、意外と虫が苦手な子も来てくれますよね。イベントの後で保護者の方から「今まで虫が嫌いだったのに、触れるようになった」とか、「イベントをきっかけに知った虫を家で飼い始めた」という話を聞くのが、イベントをやっていて一番うれしい瞬間です。

松本絵本でもイベントでもいいから、小さな体験をきっかけに自分の身の回りにある自然に興味を持ってほしいですね。

川池そうですね。幼少期から身近な自然と触れ合うことでふるさとへの愛着が育まれ、そういう気持ちをもった“讃岐人”がさまざまな場所で活躍する未来になればと思います。

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