2003年入社
山下 洋平
出身地:香川県
2023年度から2024年度にかけてKSBが制作した番組などの受賞が相次ぎました。みなさんが制作した番組などについて簡単に教えてください。
井戸垣中四国のテレビ局の若手制作者が集まる中四国制作者フォーラムという会のミニ番組コンテストで、『「聴取不能」だらけ 議会の議事録』という特集が審査員特別賞をいただきました。1年ほど前から岡山県美作市議会に取材を続けるなかで、ある日の議事録で、市にとって都合が悪い部分を「聴取不能」としているのではないかという情報が寄せられました。それをきっかけにさらに取材を重ね、議事録の残し方について問題提起したものです。
吉岡私は、テレメンタリーという全国放送の30分番組「解剖録は語る ~ハンセン病と遺族~」を制作し、テレビ朝日系列の番組審議会が選ぶPROGRESS賞の奨励賞をいただきました。
岡山県のハンセン病療養所「長島愛生園」で見つかった入所者約1800人分の解剖記録をテーマにしたものです。
園に開示を求めた2人の遺族が公開してくださった記録を元に、そこに何が書かれていて、どんなことが分かるのかを伝え、負の歴史を残していくことの意義を多くの人に知ってほしいと思い、制作しました。
村主僕は、「2秒の美しさを求めて 中学生の9カ月の記録」という特集が「ANN映像大賞」を受賞しました。これは水泳の高飛び込みに取り組む女子中学生を密着取材したものなんですが、1年間練習を重ねてきて競技では2秒で決着がつくという、その時間感覚やはかなさに惹かれて取材を始めました。
山下この賞の大賞を受賞したのはKSBでは初めてだよね。映像に特化した賞だから、コツコツといろんな映像を撮りためて、それが最後の大会の2秒間に凝縮されていたのが評価されたんじゃないかな。村主さんがよく取材に行っているのは見ていたし。
村主そうですね。やっぱり時間の流れに注目してほしかったので、秋の空とか、冬の山とか、その季節の空気感を撮ることを意識しましたね。
山下僕はギャラクシー賞の報道活動部門で、「選奨」を受賞しました。これは一つの番組ではなく長期間にわたるシリーズ報道や放送以外のイベントなども含めた活動全体が評価される賞で、2020年に香川県が全国で初めて施行したネット・ゲーム依存症対策条例の中身や制定過程についての一連の検証報道で受賞しました。
村主条例ができてから受賞まで4年も追い続けているんですね。それはやっぱり、使命感からですか?
山下ただ執念深いんですよ、性格が。この4年の間に番組を2本制作して、そのうちの一つは別の賞をもらったりもしたんだけど、その後も条例がどう運用されているかを取材し続けて、2023年の4月には書籍化もしました。条例とか法律ってできる前は議論になったりするけどできたら忘れられちゃうことが多いから、そこをずっと追い続けたのが評価されたんだと思います。
井戸垣その、賞を申請するときの書類もすごかったですよね。忙しいなかですごい枚数の書類を書いていたのを目にしました。
山下なんで知ってるの(笑)
村主締切の5分くらい前に「出したぞ!」って言ってましたね。
山下そうだったね。制作物の内容ももちろんだけど、申請書類でそれをどれだけ丁寧に伝えるかって結構大切だと思ってるんだよね。
井戸垣人の目につかない部分でも手を抜かないってなかなかできないし、そうやって先輩がたくさんの賞をとってくださるおかげで後輩の僕らが仕事をしやすくなっているのはすごく感じますね。
受賞というのは、そのときだけのものじゃないんですね。
山下それはすごくありますね。僕はこのメンバーの中では一番長く報道をやっているので、そういう蓄積もあって、ありがたいことに指名で情報提供が来るようにもなりました。ちょっと難しそうだなと思う取材の依頼をしたときも、過去の自分の仕事を見てくれていて「あの番組を作った山下さんなら、取材を受けてもいいよ」と言ってくださったり。吉岡さんも、継続的に取材しているテーマが多いけど、そういうことがあるんじゃないですか?
吉岡そうですね、最近とくに指名でメールとか電話をくださることが増えています。吉岡さんに取材してほしいって言ってもらえるとすごくうれしいですね。
山下記者冥利に尽きるよね。
井戸垣僕の場合は受賞自体がとても励みになっています。第三者が評価してくれると自信になるし、実際、この美作市議会の事案を放送した後、ほかの自治体の関係者からも相談をいただいたりしています。1回の放送が、次の取材につながっている感じですね。
吉岡そういう期待に応えられるようにしっかり取材しないといけないなと思いますよね。
そもそもみなさんがKSBに入社したきっかけは?
吉岡私はKSBが3社目で、最初は東京の制作会社でドキュメンタリーを作っていて、それから地元の奈良のテレビ局に転職して旅番組やグルメ番組に携わっていました。奈良で働くようになって、東京よりもローカルは地域への密着感があってそれがおもしろいなと感じたので、今度は地元じゃないローカルで働きたいと思って、奈良は海がないので海がある場所ということで瀬戸内海を目指して転職したって感じです。それでKSBに来たら、山下さんをはじめドキュメンタリーに力を入れている先輩がいらっしゃって、ドキュメンタリー熱が再燃したんですよね。じつはハンセン病のことを知ったのも、KSBに入った後なんです。
山下村主さんは、ドキュメンタリーが作りたくてKSBに入ったんだよね。
村主そうですね。ドキュメンタリー番組を見るくらいしか好きなことがなくて、それを仕事にできたらなと思って、ドキュメンタリーに力を入れているローカル局や制作会社を探して就職活動していました。
山下僕は元々アナウンサーになりたくてアナウンサーの試験を全国の局で受けて、たまたま地元の香川の局で採用されたんだよね。学生時代はドラマとかバラエティ番組が好きでよく見ていたけど、入社してから報道取材の魅力にハマっちゃって。
井戸垣僕はみなさんとはちょっと違って、地元を盛り上げたいっていうところから、テレビ局ならいろんなことができるかなと思って、KSBに入りました。テレビ局なら、報道じゃなくてたとえば営業でも、地元の企業と一緒に地域を盛り上げることができそうだなと思ったんですよね。
山下この4人はみんなキャラクターも興味関心も違うから、それが逆にいいと思う。みんなが制作したものを見ていても、「これは自分にはできないな」と思うことがよくあるし。いろんな視点、いろんな考えを持った人がいっぱいいる局の方がおもしろいよね。
報道の仕事をする上で大切にしている視点や考えはありますか?
山下やっぱり現場に行って人と会って話を聞かないとわからないことってあるから、そこは大切にしようとは思っているかな。
吉岡そうですよね。私がそもそも最初にハンセン病について取材しようと思ったのも、取材する前はハンセン病やその周辺の問題について暗くて重いイメージを持っていたのが、実際に療養所で話をしてみると思いがけず明るくて前向きな言葉が出てきたことがきっかけなんです。最初に持っていたイメージと、実際に取材に行って話を聞いたり現場を見たりするときに感じるギャップって必ずあると思います。そういう、世間一般に持たれているイメージとは違う面を見つけたときには、ありのままを見せることで、その問題についてより意識が向けられ、関心が深まるようにと思っています。
村主井戸垣さんは、受賞したのは美作市議会の取材ですけど、ほかにもいろんな自治体を取材していますよね。
井戸垣そうですね。行政関係はよく見ていて、いろんな自治体の取り組みや予算についても取り上げたりしています。
村主何か行政に目が向くきっかけがあったんですか?
井戸垣2022年に半年間の育児休業を取らせてもらったんですが、そのときに行政の役割の大切さを実感したんですよね。にもかかわらず、その行政がうまく機能していない場合もある。少しでもまちがよくなるために、地域にとって重要な行政がきちんと機能してほしいという思いが強くあります。よく報道は権力の監視をすることが使命だと言われますが、それが自分の今の役割かなと思っています。
吉岡私は「人」にフォーカスして取材することが多いんですが、山下さんや井戸垣さんは「人」以外のものも継続取材していますよね。そのモチベーションってどこにあるんですか?
山下難しいけど、怒りっていうのはあるかな。こんなことがあっていいのかとか、こんな不正は許しちゃいけないだろうとか。
井戸垣僕も怒りのエネルギーは大きいですね。行政がこんなだと、まちがよくならない!みたいな。でもすぐカーッとなってしまうので、それは気を付けようと思っています。
山下怒りが原動力になることは多いけどそれだけじゃないからね。それにやっぱり、根底には「人」があると思う。何かの物事によって理不尽な目にあったり、逆に不当に利益を得ている人がいたりしたら許せないっていう気持ちかな。
みなさんは徹底した「現場」主義ですね
山下さっきも話に出たけど、現場に行かないとわからないことってあるから。最初に持っていた先入観が、実際に取材すると「そうだったんだ!」って覆されるのがこの仕事の楽しさでもあると思う。
吉岡わかります。それでどんどん興味が出てきますよね。私は、みんなが知っていることでも意外と注目されずに埋もれてしまっている事実があって、それを知ることで見方や考え方が変わることもあると思っています。そしてそれは、やっぱり現場に行かないと見えてこないものだと思います。
村主高松から岡山に異動になった今でも、香川県のハンセン病療養所「大島青松園」に足を運んでいるんですよね。
吉岡そうですね。瀬戸芸や夏祭りなどの行事がある時にはこまめに取材しています。最近は取材ではありませんが、ゲートボール大会に参加しました。
山下ドキュメンタリーに関わっていると、取材交渉だけで1か月、そこから取材と撮影で何か月もかけて、ニュースの特集や番組を作ることもよくあるよね。でも一方で、スマホやパソコンでニュースを見る人が増えている今、よりタイムリーに記事を上げるためのスピードも求められている。それはどちらも大切なんだけど、ウェブニュースにはPV数という分かりやすい指標があるから、ともすればそちらに引っ張られそうになる。そういう意味でも、今回のように賞をもらえるということは何度も現場に足を運んで時間をかけて作ったものが人の心に刺さったということだから、PVとか視聴率だけじゃない指標、評価軸、そういうものだと僕は思っています。
報道の仕事を通して実現したいと思っていることはありますか
井戸垣僕はもう、すべては「地元を盛り上げるために」ですね! そこを最終的な目標として、そのとき自分にできることをしていきたいと思います。
村主僕は元々ドキュメンタリー番組が好きだと言いましたが、その理由は自分が知らない世界や普段あまり光が当たらない世界を知ることができるからかなと思うんです。だから自分が取材するときも、スポーツならマイナーとされる競技に目が行きますし、それ以外のジャンルでも、社会のなかで多数派ではない、声が大きくない人たちの話を聞いて、それをより多くの人に伝えていけたらなと思います。
吉岡みんなに知られていないことを伝えたいというのはありますよね。自分が疑問に思ったり興味を持ったりしたことをフックに取材していくと、それまで気づかなかった視点や知らなかった事実に出会うことがあるから、それをみんなにも知ってほしいなと思う。
山下やっぱり原点は自分の好奇心だよね。僕は自分の報道で社会を動かしてやろうとかいうのはおこがましいと思っていて、それより日々の一つひとつの取材を通して「ああそうだったんだ」「なるほど」って思ったり、その人しか言えない言葉を聞いたりしたときにやりがいを感じているから、それをほかの人にも伝えたいなと思う。それはやっぱり現場に行かなければ得られないものだから、そこを怠らず、足を運び続けて見えてくるものを拾っていくことが大切なのかな。
村主今回改めてみなさんの思いを聞いて、やっぱり世の中を変えてやろうとかじゃなく、自分が興味を持って現場に行って、そこで自分が感じたことに答えを求めて継続取材して、それが受賞という形で実ったんだなと感じました。
山下自分が誠実にそのことに向き合えるかどうかって、興味があるってことが大切だしね。短いニュースでも1本1本手を抜かずにやって、取材相手と視聴者からの信頼を積み重ねていきたいよね。